埼玉県K市  主婦43歳 M・Kさん

M・Kさんは会社員の夫、長男・次男を持つ埼玉県に住むごく一般の主婦である。何気ない一般の家庭だが、長男・次男の不登校の問題を抱えている。長男は中学3年生・次男は中学1年生で、あいつぐ中学校での不登校に、非常に頭を悩まされている。母親としての心境や、将来への心配、悲観、不登校問題についての夫婦間の意見の相違など語ってもらいました。

 

━ まず長男が中学生の時に不登校に陥ったと言うことですが、 それ以前小学校で様子はどうでしたか?

割合普通と言いますか、ごくごく普通に友達がいて、一緒に遊びに行ったり、誕生会を開いたりしていまして……こうなる(不登校)兆候は全く見えなかったです。だから中学に入った途端に急に「学校が嫌だ」「行きたくない」「おなかが痛い」とか言い出しまして……

━たしか私立に通ったんですよね?

はい。私も夫も教育には熱心でして、いまは公立中学も荒れているし、将来のこともあるから、進学校に通わせてみました。

━学校が変わるという変化がなにか関係しているんでしょうか?

そうだとおもいます。水に合わなかったといいますか……昔との友達とも離れてしまって

━そのことで何か不平不満を漏らしていましたか?

あまり口に出さないタイプなので、直接私たちには言ったことはなかったです。でも、スクールカウンセラーの人にはそう言っていました。進学校に入れてしまったのがいけなかったのかと後悔しているんですが、もう少し友達と遊ばせてやりたかったですね。大好きな野球を受験勉強でむりやりやめさせてこともありまして。野球仲間の友達に無視されたこともあってみたいで、それがすごくショックだと言ってました。公立に入ればまた友達と一緒に野球も出来たと思いますものですから

━私立では部活は何をやっていたんですか? 野球は続けなかったんですか?

最初、野球部に入ると言っていたんですが、最初の一ヶ月でやめました。いろいろとしごきやいじめがあったみたいで。同じ一年生の同じクラスの子供もそれを見て、息子をいじめるようになって、どんどん波及していったんだそうです。だから、小学校から野球をやっていた先輩とか友達と一緒なら、こうならなかったのにって

━直接の不登校の原因はいじめということですか

それが一番強いと思います。気の強い方ではないので、昔からからかわれることがあったんですが。それでも友達は多かったですし、かばってくれる子もいて。

━中学生は一番残酷な年代というか、ものすごく攻撃的になるときがありますよね。いじめについて学校と相談されたんですか?

最初、まったく息子がいじめられているなんて思っていなくて。息子も言わなかったものですから。でもどんどん中学から帰るたびに元気がなくなっていて。そのときに私たちが何か対処してやれば良かったと思っています。どこかで信号を発していたと思います。

━息子さんはいじめのことをいうタイプなんでしょうか? つまり、恥かなと思えることも親に言うタイプなのか、自分の心境をどんどん表現できる子なのかということで

いえ、一見ひょろひょろしているんですが、芯は結構強くて、プライドはかなりあると思います。

━そのプライドはお父さん譲りですか? お母さん譲りですか?

たぶん私に似たんだと思います。人からバカにされちゃいけないと常々言っていましたから。そこが息子を逆に追いつめていったんじゃないかと。当時は考えなかったことですが

━そうですね。責任感が強くてプライドが高い子供は、心に抑圧をためやすいですから。一人で何とか解決しよう、まわりに迷惑をかけずに耐えようとしますから

だから、いじめのことがわかって、野球部の顧問の先生が教えてくれたんですが、それでクラスでもいじめの対象になっていて、せっかくできた友達もどんどん息子から離れていって、だから担任にいいに行くと私が息子に言ったんです。夫はやめろと反対したんですが。そうしたら、長男も絶対それだけはやめろといって。すごくプライドが傷ついたんだと思います。それ以降私にも心を開かなくなっていって。それで学校が嫌だ、やめたい、と言い出しまして……

━私立ですから、他の学校に転校と言うことも割合しやすいこともありますね

夫と私が意見が一致していたのが、そのときは効率は絶対嫌だと言うことで。そこに戻すと逆に、またからかいの対象になる恐れもあって。別の私立に転入したらと言ったら、それも長男は拒否しました。夫が言ったのは、公立中学にいって、昔の友達とトラブルになったら、もう立ち直れないぞと言われて、私は無理矢理いまの私立中学を卒業して、高校はべつのところに行きなさいと言ったんです。だから我慢しなさいって

━中高一貫教育だったんですか?

そうです。これから5年もおなじ状況が続くと思うと、すごく憂鬱になるとスクールカウンセラーを通して聞きました。

━あと2年中学に我慢して通うことができなくなったんですね。2年我慢すれば解放されるのに、それが難しくなったのは、そうとうお子さんに心理的な抑圧がかかっていたんでしょうね

はい。相当プレッシャーだったと思います。私も夫もなんだあと2年じゃないかって、2年生になっても通わせていました。とにかくどんなことがあっても、私は通わせる決心でいましたし。

━それに子供の心が耐えられなくなった……

そう言うことだと思います。私もまさかここまでもろいものだとは気づかなくて

━それはご自身の立場なら、苦しくても通い通せたということでもありますよね

はい。夫も俺なら通っていたぞと息子に言って、逆に傷つかせてしまいましたし。カウンセラーの方にそれは言ってはいけないですよと言われました。

━根性論になるといけないということですか?

だと思います。長男も自信がなくしてしまって、責任感が元々強い子供ですから、あるとき「元気になりたい」って涙で打ち明けられたことがありました。だから相当息子も葛藤していたんだと思います。

━不登校問題の難しいところは、ほんとうは通いたくても通えないと言うところもありますよね

ああ、この子は本当は通いたいんだ、落ちこぼれになりたくないんだとはじめてわかって、根性論で育てていた私はほんとうに後悔しました。

━スクールカウンセラーの助言はよかったですか?

子供の心の動きを教えてくれて、誰にも相談できなかったものですから、最初はありがたかったです。この人に任せていれば大丈夫って根拠なく思っていましたね。なにしろ専門家なので、私たちの初めての子供のある意味失敗と言いますか、それを手助けしてくれると思っていたんです。だから、今みたいに(子供二人とも依然不登校)なるなんて夢にも思っていませんでした。

━思春期の子供の心がいったん大きくつまずいてしまったら、修復は難しいと言います

ほんとうにそう思いました。もともと次男を含めてとても感じやすい子供でしたし、いつも後悔の連続です

━いまの子供さんたちはどこに通われているんですか?

とりあえず、フリースクールに二人とも入れています。勉強を教えてくれますし、同じ境遇の子供が集まっていますから。自分の存在が浮かなくていいといって、そこは通っていますが、本心としては、ちゃんとした学校に通ってもらいたいです

━将来の夢や目標をお子さんたちはもっているんですか?

弟の方は板前になりたいといっていますが、長男は何にもやりたいことがないみたいで、一日中ゲームをしています。ゲーム脳になるのが怖くて、やめさせようとしているんですが、なかなか……もう私も何をしてやればいいかわからなくなって……夫はいずれ解決する、時間が薬だと言っていますが、私としてはなんとしても解決させたいので……

━母親の立場と、男親の立場は、不登校の子供に対しての考え方が違うと聞きます。相違はありますか?

あります。口論は絶えないくらいで、悠長ぶりには私としてはちょっと、まじめに考えてよと言いたいですね。なんで男はってよく思いますよ。夜遅くまで帰ってこないので、子供たちとの接点はあんまりありませんし。私一人だけがヒステリー状態になって心が安まらないです。

━子供の問題で母親が潰れてしまうことが取材を通してよく聞きました。毎日子供たちと向き合うことで、気苦労が絶えないと思います。どういっていいかわかりませんが、体に気をつけてください

ありがとうございます。私自身カウンセラーに通っていまして、子供のとは別のところなんですが

━子供もそうですが、誰でも心に抑圧をためるとよくないですからね

話すことで、夫の悪口とか、子供たちへの嘆きがほとんどなんですが、気分がすーっとできることがあります。でも夜中なんか考え過ぎちゃって、ものすごく苦しいときがあるんです

━子供たちの将来のことですか?

はい。それと私自身の将来のことと合わさって、本当に苦しいんです。強迫観念が襲ってくるような……真夜中に急に目が覚めて、全身が汗で濡れていて、ものすごくなんていうか……マイナス思考が襲って来るんです。このままじゃだめだ、なんとかしなくちゃって。だから精神科でもらった安定剤を飲んで、睡眠導入剤も飲んでやっと落ち着いて寝れるようになるんですが……

━そうですか……

先に私がこのままいくとダウンしちゃうんじゃないかしらって、不安に襲われたりもします。子供の方はまだゲームをやったり、一日中テレビを見ていればいいでしょうけど、あの子たちに、夫もそうですが、私の苦しさがわかっていないんじゃないかと思うと、もうイライラしたりします。でも投げ出すわけにも行かないですし、逃げ場がないのがもう3年近く続いてます。

 

インタビューを終えての感想

私が言葉を投げかけても、すべてがむなしく響いて、いかに不登校の問題が親の心に深刻な影響を与えるか、身に染みてわかりました。
子供を思う親の気持ち、愛情に心が打たれ、生きることの大変さを改めて思い知りました。
どうか、子供さんが立ち直り、心の平穏を取り戻せればと願っています。
いかに親子といえでも、意思の疎通が難しく、すべてが裏目に出てしまうか、難しい問題であり、永遠の人間の課題かもしれません

不登校問題 インタビュー・対談集